事件です
タイから帰国する際に立ち寄ったマレーシアのクアラルンプール空港で事件は発生した。
約3時間半のトランジット。
時刻は午前11:30。
「ゆっくりとお昼ご飯でも食べて過ごそうか〜。」と、空港内のフードコートへ。
そこに集まるレストランの店頭に並ぶメニューを見て回った。
ない・・・。
ない・・・。
ひとつもない・・・。
ベジタリアンメニューが全然ないのだ。
全店舗確認したが、ベジタリアンメニューのあるお店はひとつもなかった。
プーケットのレストランでは当たり前のようにベジタリアンメニューがあっただけにちょっと不思議な気分。
「全然ベジタリアンメニューないねぇ。」
「でもまぁ、聞いてみよっか。お肉なしで作ってくれるお店があるかもよ。」
ということで、比較的お肉をぬいても作りやすそうなフライドライスのお店へ。
そのお店は調理場がガラス張りになっていて、作る行程が丸見えだった。
あらかじめ刻んであるお肉や野菜がそれぞれボウルに入っている。
オーダーの内容に合わせて、お肉、野菜、卵などを炒め、最後にごはんと調味料を入れてささっと混ぜながら炒めて出来上がり。
このお店だったら最初に入れるお肉をぬいて作ってもらえるんじゃないか。
作る工程をひとつ省いてもらうだけで、あまりお手間をかけずにすむ。
そんな思いでカウンターへ行きお願いしてみた。
「すみません。もしできるならお肉を入れず作ってもらいたいのですが可能ですか?」
「は・・・?今、なんて?」
ヘジャブ(ヘッドスカーフ)をつけたイスラム教徒の女性スタッフがイライラしながらこたえた。
「えっと。すみません。Aのフライドライスをお肉なしでお願いできますか?」
「なんで???」
「娘がベジタリアンなんです。」
「はぁ???ベジタリアン?」
「お肉なしでお願いできますか?」
その女性スタッフは大きくため息をつきながら右手に持っていた調理用のおたまでカウンターをパーン!とたたいた。
「すみません・・・。無理なら結構です。」
引き下がろうとすると。
「いくつ?フライドライス何皿いるの?」
え?作ってくれるの???
今のおたまパーンは何だったの?
気合いを入れるための儀式か何か???
戸惑いながらも
「じゃあ、AとBのフライドライス2つお願いします。」
「2つともお肉ぬきで?」
「はい。お願いします。」
やっとオーダーできた!
よかった・・・。
と安心したのも束の間。
彼女は白目をむいて、またまた大きなため息ひとつ。
「あぁーーー?なんで2つともお肉ぬきなのよ?」
「あ。娘とシェアして食べたいので。」
「NO!!NO!!!子どものためなら作ってあげてもいいけど、大人のためには作らない。ベジタリアンメニューが食べたいなら違うお店に行きな!!!!」
大声で怒鳴られてしまいました。
・・・・・・・・・・・・。(涙)
どきどきどきどきどきどき。
驚きのあまり心臓ばくばく。頭の中は真っ白。
とぼとぼ歩きながら他のお店の前を行ったり来たり。うろうろうろうろ。
先ほどの出来事で心がひしゃげてしまった私たちは「お肉なしで」つくってもらえるか交渉する勇気すら出なかった。気を取り直すことができなかった。
あぁ。
ベジタリアンフレンドリーぼけしていた・・・。
無意識のうちにタイのベジタリアン文化の中にどっぷり浸かってしまっていたんだ・・・。
・できるだけ下から下からお願いしたつもりだったけど、それでもダメな時もある
・あの女性スタッフは悪くない
・お店で自信をもって提供されているメニューに対して、自分の思想を押しつけてワガママを言っているのは私たちの方だ
・いろいろな考え方の人がいて当たり前
・動物のため、地球環境のためになってるからといって、自分は良いことをしてると思ったらダメ
・理解を得られなくて当たり前、くらいに思っておこう
・ハードルは高ければ高いほどチャレンジする甲斐があるってもんだ
と。思えたのは。
それから1時間後のことだ。
人前で怒鳴られた苛立ちと寂しさと恥ずかしさでどうにかなってしまいそうだった私は「とりあえずビール飲みたい」と大人のわがままを言った。
フードコートの外にひっそり佇むBARに向かうと、ミックスナッツと野菜サンドイッチとマルゲリータピザがあった。
「あぁ。よかった・・・。(涙)」
「最初からここに来たらよかったね。(涙)」
と言いながら乾杯したビールが心にしみた。
500mlのビールを2杯飲みほした頃にやっと思えたのだ。(笑)
「どんなときも謙虚な心を忘れずにがんばろう。」
それしかない。
人生ではじめて人前で怒鳴られた。
異国で。レストランで。親子そろって。(笑)
でも、良い勉強になった。
こんな出来事はいつか必ず起こりえること。
人と違うことは「罪」ではないけど。
それを「悪」だと思う人もいる。
信念は自分の心の中だけで誇りに思っていれば良い。
おごらず、謙虚に、楽しみながらやっていけば良い。
この事件はベジタリアン初心者の娘には辛いものだったけど、間違いなく良い経験になった。
ベジタリアンレベル0からレベル0.5くらいにアップデートされたように思う。